
「速くなるにはどうすればいいですか?」と、サイクリストやトライアスリートから聞かれることあります。そのたびに「どうしたら速くなれると思いますか?」と聞き返してますが、返ってくるのはパワートレーニングやペダリング効率、フィッティングという答えが多く、それと同等くらいにホイールを変えるという答えも耳にします。
確かに、それらも速くなるための一つの方法ではありますが、すでにしているところからもう1ランク上がりたいならば、別の選択肢も考えないといけません。そうしたサイクリストやトライアスリートが実施していないのが「自転車に乗ること以外のトレーニング」です。そのトレーニングとしては、体幹トレーニングだったり、ヨガ、ピラティスなどがあげられたりしますが、私は「筋トレ」をオススメしています。
ということで、速くなりたいという方に筋トレするといいですよ、という話をすると途端に情報をシャットアウトしてくる方も多いので、サイクリストやトライアスリートに筋トレをオススメする4つの理由を、順に説明したいと思います。
パワーの向上
自転車競技の世界では「パワートレーニング」という言葉が流行っています。
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【2017年4月更新】自転車(ロードバイク)のパワートレーニングについてまとめてみました【保存版】
パワーメーターについて パワーメーターの種類について記載しています➡︎ パワーメーターの使用方法について記載しています。➡︎ パワートレーニングのソフトウェアについて 「Training Peaksの登録方法」について記
自転車で表されるパワーとは「トルク(どれだけ重いギアを回すか)×ケイデンス(どれだけ早くペダルを回すか)=パワー」というように表されます。様々なスポーツで表される共通言語としてのパワーは「筋力×速度=パワー」となります。筋力とは、筋肉の横断面積に対しどれだけの力を発揮しているのかを表したものであり、速度は筋肉の収縮速度を表しますが、それらを掛け合わせたものがパワーになるわけです。
「パワーを向上させるためには速度(筋収縮速度)を向上させればいいのか?」と考える人もいると思いますが、残念ながら、現状では筋収縮速度を向上させることは難しいため、筋力向上に取り組むことをオススメします。その筋力を効率よく向上させてくれるトレーニングが「筋トレ」になるわけです。
筋力が向上すれば、ペダルを踏み込む絶対的なパワーも向上することに伴い、今までと同じようにペダルを回した際に発揮する力は相対的に見て少なく済むことが多くなるため、相対的に負荷が軽くなり持久力(疲労の軽減)を向上させることが可能となります。
筋肉量の維持・向上
長時間の有酸素運動を継続的に実施する場合、エネルギー供給システムの影響により筋分解(筋肉をエネルギーとして使用する現象)が発生し、筋肉量が減量することが多くあります。するとパワーおよび持久力の低下につながります。
先ほどのパワーの原理で言えば、筋肉量低下=筋力低下が起こりやすいため、パワーの低下だけでなく、筋肉は《ガソリン(グリコーゲン)貯蔵庫》でもあるため持久力の低下にもつながります。シーズン後半にパフォーマンスが低下しやすい、という人はこれらが重なっている可能性があります。
筋トレを導入することで、筋分解の抑制ができることや、筋の再合成(筋肥大)が望めるため、ある程度の筋肉量を維持することができるため、パフォーマンスを維持させることもできます。
運動効率(短時間および長時間の持久的能力)の向上
一つの研究データをもとに解説します(このパートの説明は少し専門的になります)。
プロサイクリスト(Vo2max=66-70ml/kg/min)を対象に《A群:有酸素運動だけを行ったグループ》VS《有酸素運動+筋トレを行ったグループ》にわけてトレーニングを行い、12週間後にどうなったかを比べたデータがあります。
A群に比べ、B群の方が185分間走行した場合の最後の60分間において、自転車の駆動効率(ペダリング効率)向上による持久能力向上(疲労の軽減)が見られました。また、B群の筋繊維の変移(タイプⅡxからタイプⅡa)が生じ、血中乳酸濃度の上昇を抑えられるようになり、5分間のにおける出力が7%向上したという結果が得られてます。
これは長時間のロードレースにおいて、後半にかけて体力を温存することができ、ゴール前のアタック合戦やスプリントにも強いカラダを手に入れることができることになります。ロードレースだけでなく、アイアンマンなどのトライアスロンでも十分に通用する能力となるでしょう。
柔軟性の向上および障害予防
「筋トレをするとカラダが硬くなる」と訴える人もいます。しかし、正しくが実施できていれば基本的には硬くなることはありません。
では、正しくないフォームといえば、腰が曲がっているなどのトレーニングによっては障害につながりやすいフォームや、関節(筋肉)が持つ最大可動域で行っていないフォームです。
正しく行うことができれば、柔軟性が向上し、筋腱スティッフネスの改善にもつながるので障害予防につながります。特に乗っている最中に膝、腰周りに違和感を覚えるという方の場合、それらの改善にも繋がるでしょう。
筋トレを行う場合
実際に筋トレする場合、どのような種目を実施すればいいのかはこちらにまとめてあります。興味のある方は、一度ご確認ください。
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自転車(ロードバイク)をより速く乗るためにオススメの6つの筋トレ 下半身編
過去に「ペダリングでこのような筋群が使われます」と説明をした記事を書きました。それらの筋群は、自転車に乗っている最中にも鍛えることができます。 しかし、ペダリングで使用される筋肉を「効率よく」鍛えると考えた場合、自転車を漕いだ
また、トレーニング種目を確認したら、以下のトレーニングテーブルを参考にトレーニングを実施します。
目的 | 負荷(%1RM) | 回数 | 休息 | セット数 |
筋持久力 | 67%以下 | 12以上 | 30秒以内 | 2-3 |
筋肥大 | 67-85% | 6-12 | 30-90秒 | 2-5 |
筋力 | 85-90% | 4-6 | 2-5分 | 2-6 |
※1RMとは、たった1回上げることができる重量。
トレーニングテーブルだけでは分かりにくいと思うので「これから筋トレをやってみようかな?」と考えられた方は、以下の流れを参考にしてみてください。
[aside type=“normal”]筋トレの進め方
【準備期】
- 1週間に1〜2回、中2〜3日開けるようにして実施する。
- 1種目を3セットずつ行います。
- 1セットにつき、8〜10回ずつ行います
- 4〜6週間、筋トレ継続する。
【筋力向上期】
- 1週間に1〜2回、中2〜3日開けるようにして実施する。
- 1種目を3〜4セットずつ行います。
- 1セットにつき、4〜6回ずつ行います
- 6〜8週間、筋トレを継続する。[/aside]
[aside type=”warning”]トレーニングの注意点
- 重量よりも適切なフォームを大切にする。
- トレーニングフォームがわからない場合は、一度、専門家に指導を受ける。[/aside]
また、シーズン中にも筋力低下や筋肉量低下の予防として、週1〜2回の頻度で導入することを勧めまします。オフシーズンには、低下した筋力と筋肉量を戻すために、週2〜3回は筋トレを導入することをお勧めします。
サイクリストやトライスリートで「速くなりたい」と考えている方は、取り入れてみるのはいかがでしょうか。また、既に取り入れている方でもパフォーマンスが伸びないと悩んでいらっしゃる方は、トレーニングメニューの見直しが必要な方もいらっしゃると思いますので、今一度、自身のトレーニングを見直してみるのもいいのでは、と思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
あとがき
12月中旬にこのような質問をしました。
《サイクリスト/トライアスリートに質問》Q.トレーニングとして筋トレを取り入れている?
【補足】重量を加えた筋トレとはバーベルやダンベルなどを利用し、漸進的に強度を上げることができるツールを使用したトレーニングを表しています。※チューブやサスペンションエクササイズなどは除く— 伊藤 透 Toru Ito (@toruito16) December 16, 2016
回答者は少ないのですが、3分の2ほどの方はトレーニングを実践していただいているようです。また、その中でもレジスタンストレー二ング(重量を加えた筋トレ)をしている方は半分弱といったところのようです。どんな種目をどのように実施しているかはおいておきまして、実施していただいている方は予想よりも多く感じます。
自体重で得られる効果は限られる部分があるので、慣れてきたら重量を加えることをオススメします。