トレーニングの教科書
Joint by Joint Approach (ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチ)をご存知でしょうか?
こちらは、アメリカのストレングス&コンディショニングコーチのMichael Boyleと理学療法士であるGrey Cockによって提唱された Joint by Joint Theory (ジョイント・バイ・ジョイント理論)に基づいたアプローチになります。
両名ともファンクショナルトレーニングに関する著書を発刊しており、Joint by Joint Approach はファンクショナルトレーニングの5大原則のうちの一つである”分離と協同“という考え方の中で出てくるものになります。
ファンクショナルトレーニングの5大原則とは?
① 重力を利用する
② 分離(Dissociate)と協同(Integrate)
③ キネティックチェーン (kinetic Chain)
④ 3面運動(3Dimension Movement Pattern)
⑤ 力の吸収(Loading)と発揮(UnLoading)
・Michael Boyle の 写真でわかるファンクショナルトレーニング
・Grey.Cock の ファンクショナル・ムーブメント・スクリーニング
簡単に説明しますと、人間の関節は
Mobility Joint (モビリティ関節)
→ 動かすことに適している関節
Stability Joint (スタビリティ関節)
→ 安定させたい関節
の2つが交互に連なっていると考えられており、それに基づいて動いているまたは動かすべきだという考え方になります。以下の図をご覧ください。
例えば、股関節は”動かすことに適している関節“、腰椎は”安定させたい関節“にあたるわけですが、ルーマニアンデッドリフトという動作を行う場合は”腰は固めて、股関節を中心に動かしましょう”ということになります。
本来、適切なパフォーマンスを発揮する場合、上記のようにモビリティ関節を中心に動かさなくてはいけません。しかし、時にモビリティ関節が動かずに、隣接しているスタビリティ関節が動くケースがあります。
引き続きルーマニアンデッドリフトで例えると、股関節の可動域が足りずに深く股関節を屈曲させることができないため、骨盤を丸めて深く屈もうとしてしまう動作です。これを代償動作と言いますが、こうした代償動作が積み重なるとケガの元となってしまうケースがありますし、適切なパフォーマンスを発揮することができないことが多いです。
さて、こうした理論をスポーツ動作にどう活かすかを考えていきたいと思います。
スポーツ動作から理解する
例えば、ゴルフのスイングを例にお話します。
過去に、飛距離を出す際のスイング動作を伝える際に、ティーチングプロの方が”腰から大きく回して“と口を揃えて伝えていた時代がありました。飛距離とは、関節回旋速度(≒ヘッドスピード)やミート率、反発係数やスピン量などに影響されるわけですが、上記のようなティーチングは関節回旋速度を上げるためのアプローチをしていたのではないかと考えられます。
実際に、ゴルフのスイング動作をJoint by Joing Approach に当てはめて考えてみます。
Joint by Joint Approach に基づいた場合、動かすのは股関節と胸椎であり、腰椎は固定させたうえで回旋させる必要があると考えられます。
つまり、関節回旋速度を上げるには、ティーチングで言われる”腰を大きく回す”というティーチングの場合よりも“胸を大きく回しましょう”とか“股関節から回しましょう“というティーチングが適切だと考えられます。
しかし、そのようにティーチングをしたにも関わらず、股関節や胸椎を回旋せずに、腰椎を回旋させようとする方もいます。これは、ルーマニアンデッドリフトでも説明したような代償動作が発生しているわけですが、その原因として考えられるのはスキル不足というよりもフィットネス(筋力・柔軟性など)が足らず、思ったようにカラダを動かせないケースが考えられます。
習得したいスキルに対して、上記のようにフィットネスが足りていないことが考えられる場合は、Joint by Joint Approachから考え、代償動作にて動かしているスタビリティ関節に隣接しているモビリティ関節(この場合は胸椎または股関節)の筋力や柔軟性を確認し、まずはゴルフにおける特異的な練習ではなく、筋力や柔軟性を高めるためのトレーニングを行うといいのではないかと考えれられます。
皆さんも、習得したいスキルをなかなか身につけることができない場合は、Joint by Joint Approach から考察し、トレーニングにて必要となるフィットネスの補強を行うように努めてみましょう。
参考記事
・ フィットネスとスキルの関係性
・ 練習とトレーニングの違い
あえて反対のことをするケース
基本的には、特異的な動作を習得したい場合は Joint by Joint Approach を参考にすることをおすすめしておりますが、一部該当しないケースがあります。
例えば、ダンスなどはあえてモビリティ関節を固め、スタビリティ関節を動かすアイソレーションという技術があります。主にアニメーションといわれるジャンルで使用されるものですが、そうした場合は少し変わってきます。
そのため、意外とダンサーは腰椎や頸椎を負傷している人もいますし、膝の靭帯を怪我している人もいます。また、それに近い種目で言えば、クラシックバレエなども該当する部分はあるでしょう。
やむを得なくJoint by Joint Approachから外れた動作を行わないといけない場合、スタビリティ関節に適切な筋力と”最大可動域”を理解した上で限界を超えた動きをしないようにすることしか予防はできないのかなと考えてます。
無理しない範囲で、楽しみましょうね。